品川―名古屋間で27年の開業をめざすリニア中央新幹線の工事実施計画を、国土交通相が認可した。JR東海は年明けにも工事に入る構えだ。
 45年までに大阪へ延伸されれば、3大都市がほぼ1時間以内で行き来できるようになる。政財界を中心に、大きな経済効果を期待する声が強い一方、東京への一極集中をさらに加速する可能性も否定できない。
 私たちは、人口減少時代に入り、地方の衰退が深刻な今の日本にリニア中央新幹線を整備するのがふさわしいかどうか、主に国土政策の観点から国に慎重な判断を求めてきた。
 だが太田昭宏国交相はきのうの会見で「人の流れが大きく変わり、国民生活や経済活動にも強い影響を与える」と開業の意義を強調した。
 国の姿勢は一貫して「リニアありき」だったといわざるをえず、残念である。
 JR東海が、全線で9兆円を超す建設費を自己負担すると決め、長らく停滞していた中央新幹線計画がにわかに動き出したのは07年だった。
 東京や名古屋周辺の都市部では大深度地下トンネルを活用し、南アルプスは25キロのトンネルで貫くという壮大な事業だ。
 11年から始まった環境影響評価(アセスメント)では、全部で6千万立方メートルを超す建設残土や廃棄物をどう処理するかが大きな問題となった。大井川(静岡県)のような重要河川の水が減ったり、南アルプスの貴重な自然や景観に影響が出たりする恐れも指摘された。
 JR東海は、残土の搬入先の確保に一定のめどを示し、環境対策には万全を期すと強調した。だが、崩落の懸念から残土置き場の再考を求めた静岡県の要請を拒むなど、計画修正にはほとんど応じなかった。不安はいまも根強い。
 工事説明会や用地買収はこれから本格化する。国交相も認可にあたり、地元住民らに丁寧に説明し、理解と協力を得るよう、JRにくぎを刺した。肝に銘じてもらいたい。
 リニア中央新幹線は、140年を超す日本の鉄道史上でも空前の難工事となろう。
 東日本大震災後、国内の人件費や資材費は高騰している。工期が延びれば、ただでさえ巨額の建設費がさらに膨らむリスクがある。JR東海としてはなんとしても予定通りに開業させたいとの思いがあろう。
 ただ、工事はあくまで安全と環境保全を最優先に進めるべきだ。27年の開業という目標ばかりにこだわってはならない。