2016年8月3日水曜日

リニア延伸前倒し(2016年8月3日中日新聞)

中部圏、発展戦略の見直しも リニア延伸前倒し 

2016/8/3 中日新聞
財政投融資により大阪延伸が前倒しされるJR東海のリニア中央新幹線実験線=3月
 政府は二日、リニア中央新幹線の大阪延伸を最大八年間前倒しするため、財政投融資(財投)でJR東海に三兆円を貸し付けることを閣議決定した。JR東海も延伸前倒しを正式に表明した。巨額の整備費を自己負担する同社にとって、金利の支払いを減らせる国の支援は追い風で、中間駅が置かれる三重県からも歓迎の声が上がる。ただ、三大都市圏がリニアで結ばれる時期が早まることで、東京や大阪に埋没しない名古屋圏の都市戦略づくりを急ぐ必要が出てくる。

◆「名古屋終着」も8年短縮

 「大きな一歩を踏み出せた」。三重県の鈴木英敬知事は閣議決定を歓迎する談話を発表した。三重・奈良ルートによる大阪までの早期全線開業を国に繰り返し要望してきただけに「このタイミングを逃すことなく、三重・奈良ルートの早期実現と中間駅の位置確定を目指す」と意気上がる。
 リニア中間駅の設置を要望している同県亀山市の桜井義之市長も「朗報で力強い。三重・奈良ルートの決定に向けた推進活動を一層加速させていく」とコメントした。
 リニア新幹線は二〇二七年に東京・品川-名古屋間が先行開業し、十八年後の四五年に大阪まで延伸する計画だった。名古屋までの建設費は実に五兆五千億円に上る。JR東海は巨額債務の返済を優先させるため、名古屋まで開通後はいったん八年間の「養生期間」(同社幹部)を置いてから、大阪への延伸工事に取り掛かる腹づもりだった。
 しかし、政府の財投で資金調達できれば、銀行からの借り入れや社債発行に比べて金利負担を減らせる。このため柘植康英社長は「経営のリスク低減を生かして大阪への工事に速やかに着手する」と談話の中で明言した。
 JR東海は財投の三兆円を東京-名古屋間の建設費に投入し、債務負担を抑えた上で、その後の工事中断期間を短くする考えだ。「名古屋開業とほぼ同時に延伸工事に取り掛かれる可能性もある」と同社関係者は期待する。
 一方で、大阪延伸の前倒しは、名古屋が「リニアの終着駅」でいられる期間が短くなることを意味する。「大阪までリニアが開通していない間に、名古屋が発展できる」(財界関係者)との期待もあったが、最大八年の前倒しは名古屋の都市戦略に少なからず影響を与えそうだ。
 地域経済に詳しい名古屋学院大の江口忍教授は「人口七千万人の三大都市圏が一体となる時期が早まり、中心に位置する名古屋にとっては大きなチャンスでもある」と強調する。従来のリニア開業をにらんだ議論は東京ばかりを意識していたが、今後は大阪までの延伸を意識した戦略が必要という。
 その上で「ものづくりという強みを生かし、スピード感を持って進めなければ、リニアが全線開通した時に名古屋が埋没する危険性もある」と警告している。

◆「財投は民業圧迫」 恨み節も

 政府の財政投融資(財投)は、民間企業に低い金利で資金を長期間貸し付ける制度だ。日銀のマイナス金利政策で、銀行の貸出金利や社債の利回りが過去最低の水準に落ち込んでいるものの、JR東海にとって金利負担を軽減できるメリットは大きい。
 JR東海が4月に発行した20年物の社債の利率は0.421%。過去最低の利率ながら3兆円を調達すれば、最初の1年間に支払う金利は126億円になる計算。これに対し、財投の最低利率0.1%で調達できたとすると、金利負担は30億円と4分の1に減る。
 ある金融関係者は「将来的に金利が上がるリスクを考えれば、民間銀行が20年や30年もの長期にわたって低利で融資するのは難しい」と指摘。財投は金利の変動もないため、長期の事業計画が立てやすいという。
 財投をめぐっては「民業圧迫」との恨み節も聞かれる。東海地方の地銀幹部は「マイナス金利下で私たちは必死になって貸出先を探している。そんな中で巨額の資金需要を失うのは非常に手痛い」と打ち明けた。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの鈴木明彦調査部長は「リニア建設は、事業費の全額を民間企業が負担するという点で画期的なプロジェクトだった。財投によって政治介入という『見えないコスト』が発生する可能性もある」と指摘している。

◆持続的成長へ連携確認 財務相と日銀総裁

 麻生太郎財務相と日銀の黒田東彦総裁は二日夕、東京都内で会談した。デフレ脱却と持続的な経済成長の実現に向けて意見を交換し、二〇一三年一月に政府と日銀が交わした共同声明を基に緊密に連携していくことを再確認した。
 麻生氏は会談後、貸し出し期間が長いリニア中央新幹線向けの融資を念頭に「超長期の四十年物国債の増額について市場参加者と意見交換した上で結論を出したい」と記者団に述べた。
 政府は経済対策で、低金利で資金調達できる環境を生かした財政投融資の積極活用を打ち出している。麻生氏は四十年債を増額しても国債全体の発行額は増やさない考えも示した。

 (経済部・石原猛、三重総局・相馬敬、大山弘)
 <財政投融資> 公共性が高いプロジェクトに対し、民間では対応しづらい長期・低利・固定の資金を国が供給する制度。政府系金融機関などが融資や投資を行い、借り入れた企業などが元本を返済したり、利子を支払ったりする必要がある有償資金。税金を財源とする補助金など返済義務のない無償資金とは異なる。国債の一種である財投債などを発行し、市場から調達する資金が財源に充てられる。

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