2017年6月27日火曜日

子育て生活情報紙にらめっこ(VOL6)から

vol.177 夢か悪夢かリニアが通る!(vol.6)

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名古屋駅開発の陰で
10年後の2027年のリニア中央新幹線品川―名古屋開業を目指すJR東海は昨年12月、名古屋駅地下30メートルのリニア新駅建設に着手しました。すでに新駅と直結する高さ約220メートル、地上46階建ての高層ビル「JRゲートタワー」が完成、この号がお手元に届くころには、全面開業しています。一方、名古屋駅周辺には、新駅建設のために立ち退きを迫られ、不安な毎日を送っている人たちがいます。              ジャーナリスト・井澤宏明

我が家が工事予定地に
JR名古屋駅の新幹線改札に近い太閤通口。ここから歩いて数分、商店街から路地を入った閑静な住宅地に、鈴木多づ子さん(79)のお住まいはあります。
岐阜県出身の鈴木さんは、まだ東海道新幹線も走っていなかった1959年、空豆やグリーンピースなどの豆菓子を製造していたこの家に嫁いで来ました。朝4時に起き、ともに汗を流してきた夫に先立たれ、隣に住む娘家族と寄り添うように暮らしています。
戦前に建ち、豆を煎るのに使ったコークスの煙が染みついた鈴木家。リニア新駅工事予定地にかかっていることが分かったのは2014年秋、JR東海が中村区役所で開いた説明会でのこと。工事予定地を示した地図が壁に貼り出されていました。「少しでも(家を)それてくれればいいがなと思って、願いを込めながら一所懸命、地図を見ました」。鈴木さんの願いはかないませんでした。
計画では、新駅をつくるため、現在の名古屋駅の東西約1キロにわたって開削工事を行います。昨年着工したのはJR東海の土地だけですが、駅の東西も「2019年ごろには着手したい」(同社広報部)としています。
立ち退きの対象となる地権者は約120人。JR東海から委託を受けた「名古屋まちづくり公社」が用地買収にあたっていますが、鈴木さんは「どっこも行きたくない」と立ち退きの前提となる家屋調査を拒み続けています。
鈴木さん宅から椿神社の森の向こうにJRゲートタワー(中央)が見える
鈴木さん宅から椿神社の森の向こうにJRゲートタワー(中央)が見える
「私が生きとるうちは」
「今なら近所の人も知ってる人ばっかでお話できるで、寂しいことはないけども、この歳で全然知らん土地に行くのはねえ、抵抗を感じるんです」
やむなく調査を受け入れた近所の女性は「押入れを開けられたりして嫌だった」と辛そうに振り返ります。
鈴木さんは今年に入って、公社が示した移転候補地を見に行ってみました。「今の家は南向きで一日じゅう陽が当たってるのに、北向きだもんで嫌だと言ったの」。担当者から「今の家の前に大きなビルが建ったら(日陰になるから)、一緒でしょう」と心無い言葉をかけられたそうです。
「私が生きとるうちは、そんな工事はやってほしくない。若い人はどんどん街が良くなるのはいいだろうけど、老人にとってはこのまんまで結構だから。何も不便しとらへんもんねえ」と鈴木さん。
「本当に嫌だけど、一軒だけ頑張ってるわけにはいかんもんねえ」。ちらっと弱気をのぞかせるのも無理もないことでしょう。
老舗の市場も
立ち退きを迫られているのは、住民だけではありません。鈴木さんの家の近く、椿神社の向かいにある椿魚市場もそのひとつ。戦後の露店がルーツの同市場には現在、鮮魚店9店舗が軒を連ねています。
昨年の大みそか、市場はなじみの客で混雑していました。客の要望を聞きながら手際よくマグロの塊をさばく店員には、高齢の方が目立ちます。
客と会話しながら、包丁を入れる(2016年12月31日、椿魚市場)
客と会話しながら、包丁を入れる(2016年12月31日、椿魚市場)
市場の社長を務める森金商店の森善徳さん(70)によると、市場の一角が工事予定地にかかっているため、建物を壊さざるを得ません。残った土地に新しく市場を建てて商売を続けたいという人、土地を全部売って終わりにしようという人、それぞれの思いが交錯しています。
森さん自身も、「まだ5年や10年は続けるつもりでおったけど、リニア工事のことが決まってからは何とも言えんもんね」とこぼします。お客さんから「いつまでですか」と聞かれることも多くなりました。
「リニアが通れば世界の最先端になっていいことだと思うけど、親の代から70年もやってきたところがなくなるのは寂しい」。森さんはやるせなさそうです。
JR東海が説明会で示した資料より
JR東海が説明会で示した資料より

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